青いマツダ・ロードスター(NC)の横に立つ木下さん。街路樹を背景にした駐車場での全身ショット

撮影: 小林 裕

オーナーインタビュー

オープンカーは、遠出そのものを旅にする。木下さんとNCロードスターの6年

維持費、故障、2シーターの実用性。憧れのオープンカーに踏み出せない人へ、NCロードスターと暮らす木下さんのリアルを聞いた。

青いNCロードスターのサイドビュー 木々に囲まれた駐車場に佇む、木下さんのマツダ ロードスター。現行NDの一世代前にあたる3代目、NC型だ。

憧れをかなえるため、月々の現実から考えた

オープンカーに乗りたい。そう思ったことのある人なら、きっと一度はロードスターの中古車を検索したことがあるはずだ。屋根を開けて走る気持ちよさ、軽やかなボディ、ふたりだけの小さなキャビン。その一方で、維持費はどうなのか、古い中古車は壊れないのか、2シーターで生活できるのか、という不安もついてくる。

木下さんがこのNC型ロードスターを買ったのは、2021年ごろ。結婚してまもない時期だった。ずっと欲しかったクルマではあったが、最初から勢いだけで買ったわけではない。

「月の給料を考えた時に、遊べるお金がいくらあれば車を維持できるかをまず考えました」

目安にしたのは、月3万から5万円ほど。駐車場、ローン、保険、ガソリンを合わせて「4、5万ぐらいあればいいかな」と考えた。ローンを4年ほどで払い終える前提なら、車両価格は100万円台前半が現実的。そこで視界に入ってきたのが、当時中古相場が比較的手ごろだったNCロードスターだった。

運転席の木下さんとロードスターの全身サイドビュー 鮮やかなブルーのボディと黒いホイール。ソフトトップのロードスターを選べた背景には、当時の住まいに屋根付き駐車場があったことも大きい。

新婚で2シーターを買うことに、家族の反対はなかったのだろうか。木下さんの奥さんは、クルマに対して強いこだわりがあるというより「乗れればいい」タイプだったという。「欲しいんだったら買ったら」という空気もあり、ちょうど当時の住まいには屋根付き駐車場もあった。

「じゃあもう、ソフトトップ買っちゃうよ、みたいな感じで、思い切ってソフトトップのロードスターにしよう」

そうして見つけたのが、この青いNCだった。

最初のトラブルを越えて、長く付き合う相棒に

そうして始まった憧れのオープンカー生活は、早々に大きなトラブルにも見舞われた。木下さんは「適当な中古屋で買ってしまって」と振り返る。納車からわずか2週間。首都高C1、江戸橋ジャンクションあたりで、クルマは動かなくなった。

原因はクラッチだった。

「クラッチが死んだんですね。全部なめちゃって、ツルツルのクラッチ板になっちゃう。滑るとかじゃなくて、全然入らないみたいな」

シフトノブの上の部分も取れてしまい、棒だけでなんとかしようとしたが、もちろんどうにもならない。ハザードを点けて寄せ、レッカーを呼んだ。保証はなかった。あとで「カーセンサー保証だと、ちゃんと広範囲で保証されるから、見ておいたほうがいい」と痛感したという。

運転席まわりの内装 MTのシフト、丸いメーター、手の届く範囲に収まる操作系。ロードスターらしい濃密な運転席。

乗り出し価格は130万円弱。そこにクラッチ交換で約20万円がかかった。さらにエンジンチェックランプも点灯し、不安が重なった。そこで木下さんは、以後の整備をマツダの正規ディーラーに任せることにした。

1年目は、修理だけで30万円ほどかかった感覚があるという。車両価格と合わせれば「普通に180万ぐらいの車を買った感覚だった」。想定していた月4、5万円の世界から、いきなり現実ははみ出してしまった。

それでも手放す気持ちはなかったのか。木下さんの答えは短い。

「なかったね」

故障が続き、本気で「この車に呪われてる」と思ったこともある。東伏見稲荷で車のお祓いをしてもらったら、不思議とトラブルが落ち着いた。「多分、膿が出切っただけなんだけど」と笑いながらも、それ以来、毎年お参りに行っている。

手をかけるほど、自分のクルマになっていく

古い中古車は、壊れたら終わり。そう考える人も多いかもしれない。しかし木下さんにとって、修理はただの出費ではなかった。

ディーラーで「今回はラジエーターのここの部品が」と説明を受けるたびに、クルマの中身を少しずつ知っていく。駆動系やエンジン周り、これまで意識していなかった部品の役割が見えてくる。

「この車のことを知っていけるのが、だんだん愛おしくなってくる」

最初は外れを引いたという気持ちもあった。けれど、直すたびに状態はよくなり、だんだん強くなっていく。車検のたびに「直すところ、どんどん言ってください」と頼み、最大で30万円ほどかかったこともある。一方で15万円ほどで済んだこともあり、正規ディーラーの対応については「めちゃくちゃ良心的」と感じている。

エンジンルームの俯瞰 トラブルを経て、整備は正規ディーラーへ。壊れた箇所を知ることが、愛着にもつながっていった。

購入から5年ちょっと。ローンは完済し、これから褪せてきた青の塗り直しなど、大きめの修繕も予定している。車両、修理、車検などをすべて含めても、これまでの総額は300万円には届いていない感覚だという。

「6年楽しんだ、オープンカー楽しんで、大体300万ぐらい。年間で割ると50万ぐらい払えれば、全然いいかなと」

もちろん、これは安い買い物ではない。しかも木下さんの個体は、買い方に反省点があったケースだ。それでも、6年間の体験として見れば、年間50万円ほどでオープンカーのある生活を買ってきたとも言える。

「売る時に二束三文かもしれないし、僕が多分最後のオーナーだなと思ってるぐらいなので、乗りつぶしていいかなって」

中古車の損得だけでは割り切れない感覚が、そこにはある。

2シーターだからこそ、毎日の移動が楽しくなる

オープンカー、とくにロードスターを考える時、多くの人が気にするのが実用性だ。2人しか乗れない。荷物が載らなそう。雨や暑さ寒さも心配。生活のクルマとしては無理があるのではないか。

木下さんは、NCロードスターについて「トランクがめちゃくちゃ広い」と話す。もちろんミニバンやワゴンと比べるものではないが、2人で出かけるには十分。買い物、送り迎え、日常の移動もこなしてきた。2人でのキャンプも「全然行ける」。ロードスターで行けないのは、フェスなどに友達4人以上で行くような場面だが、それは年に何回もない。そういう時はカーシェアで割り切ればいい。

リア3/4ビューのロードスター コンパクトな2シーターだが、NC型はトランク容量にも余裕がある。ふたり旅の道具としては、想像以上に守備範囲が広い。

遠出も多い。北海道を9泊10日で旅したこともあれば、広島の宇品にあるマツダの本社工場まで走ったこともある。関西遠征も何度か経験している。

「全国行きましたね」

長距離は疲れないのかと聞くと、木下さんは「あんま疲れないですね、この車」と言う。シートが広く、体をきちんと支えてくれる。乗り心地も悪くない。

このクルマの良さは、目的地に着いてからだけではない。むしろ、そこへ向かう時間そのものが旅になることだ。

信号待ちのロードスターを後ろから 幌を開けたまま街を走る。日常の移動でも、ロードスターは少しだけ特別な時間をつくる。

以前は車通勤もしていた。片道45分から60分ほど、週に何度かロードスターで出社する朝があった。

「ロードスター乗って、出社する感じ。気分上がりますよね。心が洗われますよね」

実用車として考えれば、ロードスターは不便なところもある。だが、実用性の意味を「人数や荷物の最大値」ではなく、「ふだんの移動をどれだけ気持ちよくしてくれるか」まで広げるなら、見え方は変わる。

買ってわかった、中古車選びの大切なポイント

木下さんは、ロードスターを買ったこと自体には後悔していない。6年目になっても「かなり気に入ってる」と言い切る。現行のND型がきれいで、現代的で、かっこいいことも認めている。それでも、このNCを手放して別の個体に乗り換えたいとは思わない。

振り返って感じるのは、買い方の大切さだ。

「やっぱり車は保証付きで買わないと、中古は危ない」

これは、オープンカーに限らない中古車全般の教訓だろう。購入直後はうれしくて、販売店からレビューを頼まれれば高評価をつけてしまう。木下さんも「5つけちゃったんですよ、僕は。めちゃくちゃ後悔してます」と苦笑する。保証の有無、販売店の信頼性、整備履歴。憧れが強いクルマほど、冷静に見るべきところを見落としやすい。

横顔のクローズアップ 不安があるなら、保証付きで買う。木下さんの経験は、これから中古オープンカーを探す人にとって現実的な助言でもある。

一方で、部品代や整備性については、ロードスターという定番車種ならではの安心感もある。木下さんは修理を重ねながらも「部品は安い」と感じている。壊れない個体を選ぶことは大事だが、壊れた時に相談できる場所があり、直しながら乗れることも同じくらい大事だ。

そして今、木下さんはこのクルマを乗りつぶすつもりでいる。ローンは終わり、これからは塗装を含む大きな修繕へ。買った時の青は少し褪せたが、それも6年分の時間の色だ。

幌を開けたリアまわり 古さも傷みも、手を入れながら付き合っていく。木下さんにとってこのロードスターは、もう単なる中古車ではない。

オープンカーは、万人向けの正解ではない。4人で出かける予定が多い人、荷物をたくさん積みたい人、維持費のブレを許容できない人には向かないかもしれない。けれど、ふたりで出かける時間を大切にしたい人、遠出そのものを楽しみたい人、少しずつ手を入れながら自分のクルマにしていく過程を楽しめる人にとっては、これほど濃い相棒も少ない。

木下さんのロードスター生活は、夢だけではない。故障もあったし、想定外の出費もあった。それでも最後に残るのは、「後悔してることを考えてるけど、ないんだよな」という実感だ。

オープンカーに踏み出すなら、勢いだけではなく、保証と整備先を味方につけること。そのうえで屋根を開けて走り出せば、いつもの道も、遠くの街も、少し違って見える。

木下さんのポートレート

OWNER PROFILE

木下さんマツダ・ロードスター(NC)オーナー

1989年生まれ、千葉出身。メーカー勤務のITエンジニア。神奈川県内のマンションで奥さんと二人暮らし中。ロードスターは初めての愛車。家族が増えたら乗り換えではなく増車を密かに目論む。車好きは、90年代のBMW 3シリーズから最新のVW・トゥーランまで乗り継ぐお父さんの影響。

よくある質問

NCロードスターの維持費は、年間いくらかかりますか?

木下さんの6年の総額は約300万円ですが、これには車両の購入費(乗り出し130万円弱)が含まれます。購入費を除いた維持分は6年で約170万円、年30万円弱のペースです。しかもうち約50万円は保証なしの個体を買ったための初期修理(クラッチ交換約20万円、1年目の修理約30万円)で、ご本人は「車は保証付きで買わないと」と振り返っています。保証付きの個体を選べば、これより抑えられる計算です。正規ディーラーの車検は1回15万〜30万円ほど。金額はいずれも木下さんの申告による実額で、駐車場代・保険料は含みません。

この記事を書いた人

小林 裕編集長

BEOWNER編集長。周りから車を買いたいと相談されることが増え、都会で車を持つ見えないハードルを越える後押しがしたくなり、BEOWNERを作り始めた。初めての愛車はゴルフ6。現在はボルボ・V60とマツダ・ロードスターを所有。頑なに赤い車を乗り継ぐ。